は余程の注意がいると思つた。
はしなく男の口からその機会が生れて来た。女は昂つた男の言出しを手《た》ぐつて自分の本心を打明けようとも思つたが、それが果していいか悪いか一寸分らなくなつた。で、先づかう云つた。
「私は貴方とも計画とも別れてしまふんです。」
男は叱るやうに云つた。
「貴方まで私を疑つてる。貴方が計画と別れる。馬鹿なことだ。誰が信ずるものか。」
「本当です。本当に私は抛擲《はうてき》しました。」
「ぢやどうなるんです。」
「私、労役に行きます。それから逃亡します。」
「串戯《じやうだん》はよして貰はう。私は本気になつてるんだ。」
「決して串戯ではありません。私の最後の断案です。私、本統に独り身になつて、十七八の頃のやうな心になつて、初めつから考へ直して見たいと思ひます。貴方が恋しくつてたまらなくなれば又帰つて来るかもしれません。その辛抱が一日つづくか、三日つづくか。まあやらせて見て下さいな。私が居なくなつて、貴方のお心もどうなりますか、それも私は見たいと思ひます。」
「ぢや貴方は全く計画を抛つたのですか。」
「ええ。為方《しかた》がありません。私は貴方を助けなきやなりませ
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