に或者は呼吸《いき》もつかずに飛び込んでしまふ。足が縄にからまつて、ばつたり倒れる。之が法廷に於ける被告の多数だ。之を悪意がないと云つても、法律は許さない。社会の秩序が許さない。中にも今日《こんにち》の郵便窃盗の如く、最初から隙を覘《ねら》つて居たものは論外である。此程の犯人は犯罪の計画自体が其一切である。予定の行動を予定の如く採つたと云ふべきものである。一国通信機関の秩序と信用とを破壊すると云ふ点に於て、彼には根強い悪性がある。斯の如き被告には同情もない、酌量すべき事情もない。重く罰しなければならない悪人だ。
判事は机の下へ落ちた本を拾ひ上げた。そして頭を二三度振つて見た。少し重い、心《しん》が少し痛い。
「風邪でも引いたのかしらん。」
判事はかう思つて又ぐたりと横になつた。
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註 本篇は素より作者の創作である。殊に後半は全然空想である。モデルの誰たるかを模索することの無意味なる事を、特に読者にお断《ことは》りしたい。[#地から1字上げ](大正二・一稿/「スバル」大正二・二/『畜生道』 所収)
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底本:「定本 平出修集」春秋社
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