を具へて居ると云ふべきである。
 彼は被告の陳情を一々聞取つた。云ひたいことがあるなら何事でも聞いてやらうと云つたやうな態度で、飽かず審問をつゞけた。之が被告をして殊の外喜ばしめた。之れなら本統の裁判が受けられると思つたものも多かつた。概して彼等は多くを云つた。某々四五人のものは、既に一身の運命の窮極を悟り、且つは共同の被告に累の及ばんことを慮りて、なるべく詞短に問に対する答をなした丈であつたが、之等は千万言を費しても動かすことの出来ない犯罪事実を自認して居たからである。反之大多数の被告は、拘引されたこと自体が全く意想外であつた。そして其罪名自体が更に更に意想外であつた。新聞紙法の掲載禁止命令は茲に威力を発揮して、秋山亨一、真野すゞ子、神谷太郎吉、古山貞雄等の拘留審問の事実を、一ヶ月余も社会へは洩さなかつた。内容は解らないが、由々しい犯罪事件が起つたと云ふことを聞いて、誰しもその詳細を知りたいと庶幾つた。一体何を為出来したのであらう。世人は均しくこの疑問に閉された。被告の大多数は実にこの世人と一様に、事件の真相を知らうと希望して居たものである。も少し分けて云へば、其中に又、全然秋山等拘
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