とにした。毎年、青森から半分、道内から半分、「鰊殺しの神様」が募集される。しかし、いよいよ、監督に引率されて漁場に向って出発する迄には、逃亡者や、病気で来られなくなるものが二人や三人は必ずあった。従ってそれらの補充を見ておくことが漁場としては必要であったのである。

          二

 灰色の雪雲がまた積丹岳の上の空をおおいはじめた。斜に一直線に降ってくる雪が、水面近くなってからはげしい風に吹きとばされて暗い海のなかに乱れとんだ。溶けかかった街路の雪はかたく凍てついて足の下できしきしと鳴った。冬がまたもどったかとおもわれた。――が、やがてふたたび春の近さをおもわせるような日がかえって来た。そしてどんよりとしたうすぐもりの、しかし気温の高い日がずっとつづいた。
 鰊ぐもりだ。
 北から西にかわった潮風は湿気をふくんで生温かかった。さむざむとした暗い海のいろにも緑の明るい色がさして来た。――北海道の西海岸は対馬海流の流域にあたる。津軽海峡の西方の沖合を走り、積丹半島をすぎ宗谷海峡にはいる対馬海流は、三月四月の間、漸く膨脹し来って春の気運のさきがけをする。気温はあがり、水温も五度―七
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