あった。感覚の有無を調べているのであろう。わかるかね、と医者に言われると岡田はかすかに首を左右にふった。いうまでもなく否定の答えである。医者はそれから、力を入れないで、力を入れないで、といいながら、岡田の手足の急所急所を熱心に揉《も》みはじめた。どうやら身体じゅうの淋巴腺《りんぱせん》をつかんで見ているものらしい。時々医者が何かいうと、岡田はそのたびに首を軽く縦にふったり、横にふったりする。 
 ――そういうようなことをおよそ半時もつづけ、それから眼を診《み》たり、口を開けさせてみたり、――身体じゅうを隈《くま》なく調べた上で三人の医者は帰って行った。
 その後よほど経ってのち、同じように窓の上と下で最後に岡田と逢った時、太田はこの時の診察について彼に訊いてみた。「今ごろどうしたんです? 今まで誤診でもしていたんで診なおしに来たんじゃないのですか」事実太田はそう思っていた。そう思うことが、空頼みにすぎないような気もするにはしたが。しかし岡田はその時のことを大して念頭にも止めていない様子で答えた。
「診なおすというよりも、最後的断定のための診察でしょう……今までだってわかるにはわかってい
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