犢鼻褌《ふんどし》ひとつの姿になってそこに立たせられた。――ちょうどそれは癩病患者の監房のすぐ前の庭の片隅で、よく日のあたる場所であったが、少し背のび加減にすると太田の監房から見る視野の中に入るので、彼は固唾《かたず》を呑んでその様子を眺めたのである。
三人のうち二人は見なれない医者で一人はここの監獄医であった。その二人のうちの年長者の方が、頭の上から足の先まで岡田の全身をじっと見つめている。岡田は何かいわれて身体の向きを変えた。太田の視線の方に彼が背中を向けた時、太田は思わずあッと声を立てるところであった。首筋から肩、肩から背中にかけて、紅色の大きな痣《あざ》のような斑紋《はんもん》がぽつりぽつりと一面にできているのだ。裸体になって見ると色の白い彼の肌にそれは牡丹《ぼたん》の花弁のようにバッと紅《あか》く浮き上っている。
医者が何かいうと岡田は眼を閉じた。
「ほんとうのことをいわんけりゃいかんよ。……わかるかね、わかるかね」そういうような言葉を医者は言っているのだ。よく見ると、岡田は両手を前に伸ばし、医者は一本の毛筆を手にしてそれの穂先で、岡田の指先をしきりに撫《な》でているので
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