飛び立った。「肺病のたれた糞《くそ》や食い残しじゃ肥しにもなりゃしねえ」雑役夫がブツブツいいながらその後始末をするのだ。その残飯の山をまた、かの雑居房の癩病人たちが横目で見て、舌なめずりしながら言うのである。「へへッ、肺病の罰《ばち》あたりめが、結構ないただきものを残して捨ててけつかる。十等めし一本を食い余すなんて、なんという甲斐性《かいしょう》なしだ!」それから彼らは、飯の配分時間になると、きまって運搬夫をつかまえて、肺病はあんなに飯を残すんだから、その飯を少し削ってこっちへ廻してくれ、と執拗に交渉するのであった。時たま肺病のなかに一人二人、昼めしなど欲しくないというものが出来、さすがに可哀《かわい》そうに思ってそれを彼らの方へ廻してやると、満面に諂《へつら》い笑いを浮べて引ったくるようにして取り合い、そういう時には何ほど嬉《うれ》しいのであろうか、病舎には食事時間の制限がないのをいいことにして、ものの一時間以上もかかってその飯を惜しみ借しみ食うのである。ひとしきり四人の間にその分配について争いが続いたのち、静かになった監房の窓ごしに、ぺちゃぺちゃという彼ら癩病人たちの舌なめずりの音
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