を聞く時には、そぞろに寒け立つ思いがするのであった。――彼らは少しも変らないように見えたが、しかし仔細に見ると、やはり冬から春、春から夏にかけて、わずかながら目に見えるほどの変化はその外貌《がいぼう》に現われているのである。夏中は窓を開け放していても、この病気特有の一種の動物的悪臭が房内にこもり、それは外から来るものには堪えがたく思われるほどのもので、担当の老看守すら扉をあけることを嫌《きら》って運動にも出さずに放っておくことが多かった。そうすると彼らは不平のあまり足を踏みならし、一種の奇声を発してわめき立てるのであった。
5
夜なかに太田は眼をさました。
もう何時だろう、少しは眠ったようだが、と思いながら頭の上に垂《た》れている電燈を見ると、この物静かな夜の監房の中にあって、ほんの心持だけではあるがそれが揺れているようにおもわれる。じっと見ると、夏の夜の驚くほどに大きな白い蛾《が》が電燈の紐《ひも》にへばりついているのだ。何とはなしに無気味さを覚えて寝返りを打つとたんに、ああ、またあれ[#「あれ」に傍点]が来る、という予感に襲われて太田はすっかり青ざめ、恐怖のために
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