め》をして見るのであるが、じっと注意して観《み》ると、すでに眼の黒玉はどっちかに片よっているのであった。二人とも二十歳をすぎて間もあるまいと思われる年ごろであるが、おそらくは少年時代のうちにもうこの病いが出たものであろう、自分の病気の恐ろしさについても深くは知らず、世の中もこんなものと軽く思いなしているらしい風情《ふぜい》が、他からもすぐに察せられ、嬉々《きき》として笑い興じている姿などは一層見る人の哀れさをそそるのである。――壮年の男は驚くほどに巌丈《がんじょう》な骨組みで、幅も厚さも並はずれた胸の上に、眉毛《まゆげ》の抜け落ちた猪首《いくび》の大きな頭が、両肩の間に無理に押し込んだようにのしかかっているのである。飛び出した円《まる》い大きな眼は、腐りかけた魚の眼そのままであった。白眼のなかに赤い血の脈が縦横に走っている。その巌丈な体躯《たいく》にもかかわらず、どうしたものか隻手で、残った右手も病気のために骨がまがりかけたままで伸びず、箸《はし》すらもよくは持てぬらしいのであった。彼は監房内にあって、時々何を思い出してか、おおっと唸《うな》り声を発して立ち上り、まっ裸になって手をふり
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