に堪えなくなったものばかりを、択《よ》りに択って持ってくるのである。病人たちは、尻《しり》が裂けたり、袖のちぎれかけた柿色の囚衣を着てノロノロと歩いた。而してこういう差別は三度三度の食事にさえ見られた。味噌汁《みそしる》は食器の半分しかなく飯も思いなしか少なかった。病人は常に少ししか食えないものと考えるのは間ちがいだ。病人というものは食欲にムラがあり、極端に食わなかったり、極端に食ったりするものなのだ。一度肺病やみの一人が雑役夫をつかまえて不平を鳴らしたが、「何だと! 遊んでただまくらっていやがって生意気な野郎だ!」声とともに汁をすくう柄杓《ひしゃく》の柄がとんで頭を割られ、そのために若者は三日間ほど寝込んでしまい、それ以後は蔭でブツブツは言っても大きな声でいうものはなくなった。
 さげすまれ、そのさげすみが極端になっては言葉に出して言うでもなく、何を言ってもソッポを向き、時々ふふんと鼻でわらい、病人の眼の前で雑役夫と看病夫とが顔を見合わして思わせぶりにくすりと笑って見せたりする、それはいい加減に彼らの尖《とが》った神経をいらいらさせるしぐさであった。だが、憎まれ、さげすまれる、という
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