が鼻先に感ぜられた。
 日のなかに出ると眼がくらくらとして倒れそうであった。赤土は熱気に燃えてその熱はうすい草履をとおしてじかに足に来た。病舎までは長い道のりであった。どれもこれも同じようないくつかの建物の間を通り、広い庭を横ぎり、また暗い建物の中に入りそれを突き抜けた。病舎に着くとすぐに病室に入れられ、氷を胸の上にのせて、太田は絶対|仰臥《ぎょうが》の姿勢を取ることになったのである。
 七日の間、彼は夜も昼もただうつらうつらと眠りつづけた。その間にも、凝結した古血のかたまりを絶えず吐き続けた。彼は自分の突然落ちこんだ不幸な運命について深く考えてみようともしなかった。いや、彼のぶつかった不幸がまだあまりに真近くて彼自身がその中において昏迷《こんめい》し、その不幸について考えてみる心の余裕を取り戻していなかったのであろう。やがて落着きを充分に取り戻すと同時に、どんなみじめな思いに心が打ち摧《くだ》かれるであろうか、ということが意識の奥ふかくかすかに予想はされるのではあったが。重湯と梅ぼしばかりで生きた七日ののち、彼はようやく静かに半身を起して身体のあちらこちらをさすってみて、この七日の間
前へ 次へ
全80ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島木 健作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング