の運命は獄中の病死か、ガルゲンか、そのどつちかさ、なぞとある種の感激に醉ひながら、昔若い同志たちと語り合つた當時の興奮もなく、肩を怒らした反抗もなく、さうかといつて矢鱈に生きたいともがく嗚咽に似た心の亂れもなく、――深い諦めに似た心持があるのみであつた。この氣持がどこから來るか、それは自分自身にもわからなかつた。その間にも彼は絶えずもう暫く見ない岡田の顏を夢に見つゞけた。言葉でははつきりと言ひ現しがたい深い精神的な感動を、彼から受けたことを、はつきりと自覺してゐたためであつたらう。
 太田にとつては岡田良造は畏敬すべき存在であつた。只、この言語に絶した過酷な運命にさいなまれた人間の、心のほんたうの奧底は依然うかゞひ知るべくもないのであつた。失はれた自由がそれを拒んだ。太田は寂しい諦めを持つの外はなかつた。――「僕は今までの考へを捨ててはゐないよ。」と語つた岡田の一言は、すべてを物語つてゐるかに見える。しかし、どんな苦しい心の鬪ひののちに、やはりそこに落ちつかなければならなかつたか、といふ點になると依然として閉されたまゝであつた。「僕は今までの考へをすててはゐない、……」それは岡田の言ふ
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