とぞろぞろと廣い庭の日向へ出て行つた。太田はその時始めて、彼らの一々の面貌をはつきり見ることができたのである。色のさめた柿色の囚衣を前のはだけたまゝに着てのろのろと歩み、ぢつとうづくまり、ふと思ひ出したやうに小刻みに走つて見、又は何を思ひ出したのかさもさもおかしくてたまらないといつた風に、ひつつゝたやうな聲を出して笑つたりする、殘暑の烈しい秋の日ざしのなかの、白晝公然たる彼らのたたずまひはすさまじいものの限りであつた。四人のうち二人はまだ若く、一人は壯年で他の一人はすでに五十を越えてゐるかと思はれる老人であつた。若者は二人とも不自然にてかてかと光る顏いろをし、首筋や頬のどちらかには赤い大きな痣のやうな型があつた。人の顏を見る時には、まぶしさうに細い眇目《すがめ》をして見るのであるが、ぢつと注意して觀ると、すでに眼の黒玉はどつちかに片よつてゐるのであつた。二人とも二十歳をすぎて間もあるまいと思はれる年頃であるが、おそらくは少年時代のうちにもうこの病ひが出たものであらう、自分の病氣の恐ろしさについても深くは知らず、世の中もこんなものと輕く思ひなしてゐるらしい風情が、他からもすぐに察せられ、
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