のなかに朝晩起き臥す身となつてゐるのであらう。わづか十ヶ月前には、古賀のために法廷に立つてくれた山田氏が、いまは彼とおなじ立場におかれてゐる事實をおもひ、古賀はその一つの事實からさへも、高まりゆく状勢の險惡さを胸にしみて感じずにはゐられないのであつた。さうしたわけでこんどの控訴公判にはひとりで法廷に立つことを古賀は覺悟してゐたのである。さういふ古賀のところへほぼ一ヶ月ほどまへに山田氏の友人であつた佐藤辯護士から手紙が來た。山田のあとは自分がやることになつた。近々にお訪ねして萬事うち合せよう、との手紙の文言であつた。古賀は力づよいおもひをした。何かと世話をしてくれる辯護士があらはれたといふことを自分のためによろこぶこと以外に、古賀が自由なからだでゐた今から二年ほどまへには微温な自由主義者としてのみきこえてゐ、その後もかくべつ變つたともきかなかつた佐藤氏が、特に今日のやうな時代に、自分たちの事件を進んでうけ持つてくれるやうになつたといふこと――その事實のなかに彼は明るい力強いよろこびをかんじたのである。あらゆる分野においてあとからあとからと人はつづき、ともしびは消ゆることなくうけつがれてゆ
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