裁判所の意向をきいてきたんですがね。どうせ分離のことだし、あなたは特別不自由なからだだから、一日も早くしてもらはうとおもつて。」
「それは、どうも。……私もおもつたより早くて、うれしいんです。どうせ年を越すつもりでゐたんですから。いつになつたつて結局はおんなじことと、一應はおもつてみますけれど、おそかれ早かれきまらずにゐないことは、やはり早く片づいてくれたはうが心もらくなんです。」
古賀は少し興奮し、はしやぎ出してきた自分自身をかんじてゐた。彼が辯護士の佐藤信行氏と逢ふのは、今日が始めてである。一審のときの彼の辯護士は同郷の先輩である山田氏であつた。何かと親身も及ばぬ世話をしてくれてゐたその山田氏から、ぷつつりと音信がとだえたのはおよそ半年ばかり前の事であつた。ある日の朝、郊外の家から事務所へやつて來た山田氏が、その場から連れて行かれた事實を古賀がきくことができたのは、それからさらにふた月ほどを經たのちのことであつた。この土地には若い辯護士達から成る一つのグループがあり、山田氏はそのグループの中心人物であつたのである。姿を見ることはもちろんできないが、山田氏も今は古賀とおなじこの建物
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