ながら不思議なぐらゐに元氣で、それまできまらないでゐた心も公判を楔機にしつかときまつたかのやうに感じさへした。しかし時が經つにつれてだん/\暗いかげが彼の上をおほひはじめ、ふたたびよるべのない空虚さに心を蝕ばまれはじめるのであつた。公判だといふので無理にも心を鼓舞し鞭撻しなければならなかつたその緊張がすぎ去つたとき、こんどは今までにない弛緩した心身を感じなければならなかつたのである。この空虚なさびしさは理窟ではどうすることもできない、心の深いところに根ざした抗しがたいものゝやうに思はれた。不幸な目にあつた當座はまだよかつた。自分で絶えずなんとかしてはね起きようと努力してゐたからである。一定の時期さうし状態がつづき、その次に來たその當時のやうな虚脱状態はどうにも仕樣がなかつた。ずる/\とほとんど不可抗的な力でニヒルな氣持にひきずられて行つた。――しかし古賀はだん/\さうした場合に處する心の持ち方をも自ら體得して行つた。さういふ時にこそ彼は「時」にたよつたのである。無理に心を反對の方向に驅り立てようとはしないで靜かにその暗さのなかに沒入して時を待つたのである。すると、やがては心の一角にほの
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