不幸な状態を口實に君をしばらうとはしない、ぼくの考へは今までと少しも變つてはゐない、と彼はそのなかで言つたのである。書きながらも彼女のうちに封建時代の貞女らしいものを豫想し、それをのぞむ心があり、古賀は自分の矛盾を恥ぢた。だがそれは自分勝手な考へでしかなかつた。しばらく經つてから來た美佐子の手紙ははつきりと別れることを告げて來たのである。
その手紙が來てから間もなく美佐子は一度面會に來た。今までどほり面會にも來たい、また差入れもしたいから承知してほしいとの事であつた。――面會を終へて歸つて來、房へ入つた時に古賀ははじめて浸みとほるやうな寂しさをかんじた。彼女の存在が自分のこゝでの生活を支へてゐた大きな柱の一つであつたことを今はつきりと知つたのである。心の一角がぽこんと凹んだやうな空虚な寂しさであつた。彼はいよいよたつたひとりになつた自分をするどく自覺した。
古賀はしかし同時にすべてから解き放された自由なおちついた氣持が深まつて行くのを感じた。葦のごとく細く弱いしかし容易には折れない受身の力を――弱さの持つ強さといつたものを自分のうちに感じたのである。
公判は翌年の二月の終りであつ
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