してゐる同志上村と戀愛關係にあるらしいとのうはさを耳にした時にも、さういふ場合にすべての男が感ずるにちがひない一應の感情はうけながら、古賀は案外平氣で居れたのである。どういふ考へで言つたのかは知らぬ、ある時同志の一人が手紙に書いてそれとなく右の事實を古賀に傳へたのであつた。其の後面會に來た美佐子の樣子は、いつもと別に變つたとも見えなかつた。――目が今のやうになつてからはしかし古賀の心持は急に變つて來たのであつた。別れたくない氣持がひしひしと迫つて來たのである。その變り方を彼は心に恥ぢはしたが、心身ともに弱り藁一本にもすがりたい氣持になつてゐた當時の彼としては當然のことであつたらう。同時に古賀は美佐子の心にもなつて考へないわけにはいかなかつた。上村との事がほんたうであるとすれば、美佐子としても自分と別れるつもりでゐたにちがひはない。ただそれを言ひ出すに適當な時を待つてゐたのであらう。それがこんど古賀がかういふ不幸な目にあつてみれば、押し切つて言ひ出すわけにはいかず、さぞ困惑してゐることであらうと思はれた。幾度か躊躇した後公判の迫つて來たある日、古賀は彼女にあてて手紙を書いた。ぼくは自分の
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