美佐子は彼の妻であると同時に同志でもあつた。こゝへ來るとすぐに、古賀は彼女に對し今後はどうにでも自由な行動をとるやうに、自分の事は忘れてもいい、仕事を忘れるなと言つてやつたのである。彼女に對する彼のかういふ態度は彼の平生の持論から出發してゐた。何年こゝにゐることになるか、生きて出るか死んで出るかもわからない身でありながら妻に向つてはいつまでもさうして待つて居れと強ひる、それは許されないことであると古賀は信じてゐた。古賀はかねがねこの建物のなかにゐる同志のある人々に對し苦々しいものを感じてゐたのである。彼等の外にゐる妻に對する態度といふものは、なんのことはない封建時代の家長のごときものなのだ。ここでの自分の生活に同志である妻の生活を全く從屬させようとするのである。外にゐる彼女たちの上にひたすらに夫の權利をふるまはうとするのである。――言ふならば、その二つの面は一箇の人間において別ちがたく統一されてゐるに係らず、同志としての彼女を忘れ、妻としての彼女の半面をのみ強調するにいたるのである。その結果はどうなるか? 彼女たちの多くは次第に(原文八字缺)、やがてはいはゆる家庭へ歸つた女となる。
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