クリームいろのどろとしたものがほとばしるやうに流れでて醫者の白衣をよごした。それは結膜嚢にたまつてゐた膿汁であつたのである。結膜の表面は眞赤に熟れ切つたいちごを見るやうなものであつたといふ。おもはず、「こりや、ひどい。」
と、口に出して言つて、ぢつとそれを見まもつてゐた醫者の顏は、古賀はむろんそれを見ることはできないのだが、みるみる緊張して行つたやうにおもはれたのである。ちよつとのま、考へてゐるやうであつたが、やがて手をもとへかへしアルコホルをしめした綿でぬぐひながら、
「トリツペルをやつたことがあるかね?」
と、古賀をインテリと見てとつたものであらう、さういふやうな言葉で醫者は訊いたのである。古賀が否定の答へをすると、ぢつと小首を傾けてゐたが、ふと氣づいたやうにこんどは、
「風呂はいつだつたかね?」
と訊くのであつた。古賀が、昨日の正午すこし前でした、と答へると、ちらりと彼の顏を見つめ、ふたたび考へぶかさうな目つきをしてだまりこんでしまつたのである。
病監へ入れられてからは、目の疼痛は一層はげしくなつて行つた。熱も高く、嘔氣をもよほし二三度きいろい水を吐いた。眼瞼が上下《うへ
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