が、榮養の關係もあつたものであらう、なかなかなほり切らずにその時まで持ち越してゐたからである。夜業はことにさういふ目にはこたへた。朝は目やにで目をあけるのに苦しむこともあるほどであつた。さういふ古賀であつたから、その夜すこしぐらゐの異物感を目のなかに感じたとしても大したことにはおもはなかつたのである。夜寢てから、半ばは夢のなかで、熱をもつた兩方の目をなんどとなく手の甲でこすりこすりしたことを古賀は今でもおぼえてゐる。
翌朝起きてみると全身がけだるく、暑さのせゐばかりではない、たしかに熱があると感じられるのであつた。眼瞼はずつと腫れあがつてゐて痛みもひどかつた。手をやつてみると、耳の下の方の淋巴腺がやはり腫れてふくれあがつてゐた。黄色い、目脂のもつとやはらかいやうなものがぬぐつてもとめどなく流れでるのであつた。膿汁ではあるまいか? と疑つたとき、古賀の漠然とした不安はみるみる大きなものになつて行つたのである。彼は報知機をおろし、醫者をたのんだ。
かなり暇どつてから來た若い醫者は、「どうした?」といひながら、無雜作に古賀の眼瞼を指でつまみあげると、ぐつとそれをひつくりかへしてみた。と、
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