つたうへでの自己の適應能力にほかならぬ、と信じてゐたのであるが、數年このかた、多くの先輩である同志たちが、次々に連れ去られて行つた、その度ごとにうけた激動と、その激動が次第に沈靜してゆく過程のうちにあつて、さういふ場合に處する彼の心構へも自然にある程度まではできあがつてゐたものであらう、ことさらに氣張り、堅くなつた頑張りではなく、冷やかな落ちつきが、意地のわるいやうなふてぶてしさが、古賀の心の基底をなしてをつたといへる。さうして彼はまたさういふ心を意識してはぐくみそだてたのであつた。事實またそのためには、(原文七字缺)といふものはほかに見出しえようとはおもはれないのだ。(原文五字缺)を毎日目のまへに見せつけられれば見せつけられるほど、それを肥料として(原文十二字缺)心が一日々々(原文二字缺)してゆくのである。あらゆるあまいものを嘲笑し、あたゝかいものをしりぞけ、喜怒哀樂の感情を忘れはてた人のやうな假面のやうな表情で彼はそこに座つてゐた。だがその無表情な假面のかげにかくされてゐる無言の(原文六字缺)人々は容易に見拔くことができたのである。やがては恐ろしさといふものを知らない人間にまで鍛へ
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