、佩劍を鳴らす立會の看守部長の存在にはじめて氣づき、同時に迷惑さうな顏をしてゐるにちがひない佐藤辯護士をおもひ起し、心で赤くなつた。彼は急に話をやめ口ごもりながら、自分の饒舌の詫びをいふのであつた。
 佐藤氏は、「いゝえ」といつて、
「それで、今おはなししたやうなわけでしてね、公判もあと一ヶ月ぐらゐのうちなんですから、その前にあなたにいろいろお聞きしておきたいことがあるんです、今日はそれでお訪ねしたんですが」と用件にはいり、書類をぱらぱらめくりながら、「もつとも個々の事實の點は記録にあるとほりでべつにつけ加へることもあるまいとおもひますが、あなたの今の氣持ですね、つまり心境といふやつです、結局公判廷での態度になりますが、それをお聞きしておきたいんです。」と言つたのである。
 古賀は今までの浮きあがつてゐた氣持からたちまち嚴肅な氣持にひきもどされて行つた。いよいよ來た、といふ感じであつた。と彼は急に心の動搖と不安を感じてきた。公判が遲かれ早かれ開かれることがわかつてゐる以上、公判廷にのぞむ態度といふものもある程度まできまつてはゐた。しかし、その態度の如何といふことは古賀の運命にとつてはま
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