かし考へて見れば博勞はそのために旅もするのだし、行く先々での滯在の費用なども見ねばならぬのだし、彼等としてみれば無理もないことだ。どんな商賣にだつて仲介商人はあるのだし、昔からちやんと認められてゐる博勞を、此頃馬の値が急に騰つたからといつてそれがことごとく彼等のせゐででもあるやうに惡ブローカー呼ばはりをするのは當らぬ、とSはいふのだ。少しでも安い馬を買ひたいと、自分から馬産地の十勝《とかち》方面などに出向いたものもあるさうだが、却つて高くついて了つたといふ。願はしいのはお上が何等かの方策を樹ててくれることだ。しかしお上はどんなことをしてくれてゐるか?
 牝馬を飼つて仔を生ませろ、といふことを此頃はしきりに云はれてゐますけれど、とSは云つて笑つた。仔は生れたにしてもただでは育たぬ。生れた仔をちやんとした二歳駒にするためにはそれ相應の飼養上の設備がいることである。しかしこのあたりには放牧のための野原一つないのだ。牧草の採取すらも自由に任せぬ。春の農耕時、一ヶ月間の馬の飼料代として五十圓も支出しなければならぬほどである。放牧場もないやうなことでは立派な農耕馬の條件にかなふ骨骼をそなへさせるこ
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