りしてから、また馬屋へ來て、此頃徴發に行つたが大き過ぎて戻されたといふ馬の鼻面をなでながら、私は一時間ほどもその青年と四方山の話をした。確に北海道の農村青年の獨自な氣風といふものは感じられる。北海道の農村の新しさが生んだもので、その氣魄も、その考も溌剌としてゐて自由であつた。
どこへ行つても最大の關心をもつて語られるのは馬のことであつたが、ここでも先づ馬の話から聞かされた。私はつい先達青森縣|木造《きづくり》の有名な馬の糶市《せりいち》を見て、その盛んな景況に驚き、馬市の立つ期間のお祭騷ぎのやうな町の賑はひを物珍しく感じて來たものだが、この糶市では二歳駒が四百圓ぐらゐで賣買されることが珍しくなかつた。Sはこつちで四百圓などといふ馬は、足をつかんで、かう肩にのつけて行けるやうな馬だと云つて、以前から見れば馬の値は三倍から四倍だらうと語つた。北海道で馬を持たぬ百姓などといふものはルンペンのやうなものだから、この問題は深刻である。
馬は博勞を通して買ふ。博勞は馬一頭につき百圓ぐらゐの利を見てゐて、腕のある博勞といふのは年に二十頭ぐらゐの馬を扱ふのだといふ。
儲け過ぎる感じを與へるが、し
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