の猟師目がけて小便をひっかけたというのである。私はこの簡単な記事を繰り返し読み、挿入されている大山猫の写真を飽かず眺めた。写真の大山猫は明治大正の頃に捕獲されたものの剥製《はくせい》で、顔つきなど実物とはまるでちがってしまっているという。が、それでも熊をも倒すといわれる精悍《せいかん》さ、獰猛《どうもう》さはうかがわれぬことはなかった。頭と胴とで一米に近く、毛色は赤味を帯びた暗灰色で、円形の暗色|斑文《はんもん》が散らばっているという。毛は長くはないが、いかにももっさり[#「もっさり」に傍点]と厚い感じだ。口は頬までも裂けていそうだ。頬には一束の毛が総《ふさ》のように叢《むら》がっている。髭《ひげ》は白く太い。――しかしその獰猛《どうもう》さを一番に語っていそうなのは、しなやかな丸太棒とでもいいたいようなその四肢だった。足は上が太く、足首に至るに従って細くなるというのが何に限らず普通だろう。足首の太いものは行動の敏活を欠くなどともいわれている。ところが大山猫の四肢は上から下までが殆ど同じ太さで、しかも胴体に比べて恐ろしく太く且つ長い。それが少しも鈍重な感を与えぬばかりか、弾力ある兇猛《
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