とする、さういふ場合が多いが、ましていま報告を持つて來たのは二十まへの若ものでふだんからいたづらいたづらした眼がよく動くのであつた。人々はさういふ彼に期待し、彼のいつた一言とはまるで反對のものを讀みとらうと、その目もと口もとに見入るのであつた。すぐにもそれがほころびはじめるであらう……だが若ものの表情はいつまで經つても硬いのである。
「ふうん……さうか。」と杉村は手にした紙きれを見ながらいつた。みんなどつと彼によりそつて來、肩と肩とをすり合すほどにして彼の手許に見入つた。とふいに杉村はある種の感動のこもつた叫びごゑをあげた。「どうしたんだ、こりや、……敗けたのは仕方がないとして島田は次點でもないぜ、島田は山内に敗けてるんだ。山内の奴、どうしてこんなにのしたもんだらう。」それから、讀むぞ、といつて彼は讀みはじめた。――
 聞き終つて彼等は聲をのんだ。豫想とはあまりにみじめな相違だつた。最後にものをいふ筈であつた、かの三ヶ村の票數はどこへ行つたか、農民派と稱して二大政黨とは中立で立つた山内が最初微弱な勢力でありながら、なぜに最後に近づくに從つて次第にピツチを上げて來、つひには島田を凌ぐにい
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