と名乘り、赤革の鞄をひらき何かを探つてゐたが、一枚の紙を取出すとそれを擴げ、突然杉村の前にぐつとつきつけた。そして杉村の眼のなかにぢつと見入り、無言でゐる。杉村の顏に動く表情のどんな瑣末な陰翳をも見逃すまいとの意氣組である。
「どうだ、おどろいたか、もうこれだけわかつてるんだ。」
どぎもをうばひ得たつもりなのであらう。そこで彼ははじめてにやりとわらひ、煙草を口へ持つて行つた。杉村は眼の前にひろげられた紙を見た。美濃紙二枚ほどの大いさである。中央に長方形が描かれ、ある組織の機關名と括弧して人の名とが書いてある。その長方形はたくさんの線で、周圍の圓形や四角形に結合され、その各々には同樣に機關名と人の名とが記されてゐる。赤いアンダーラインのしてあるその一つを、相手はだまつて指でついた、杉村はそこに自分と小泉の名を見た。
「どうだ みんな言つて了ふかね?」
「ええ……」とちよつとためらつたのちに、「少し考へてからにしませう。」といつた。
「ふん、」と彼は鼻を鳴らした。「鐵の規律か、――それもよからう。だが君は手※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]しがよかつたな。感心したよ。」
「え、な
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