んですか。」
「白つぱくれるな!」と彼はそこではじめて大きな聲を出し、とんと机をうつて見えを切つた。
「何か一枚ぐらゐおれや出るかと思つたよ。ところがどうだ。掃き清めたやうにきれいなもんだ。合法出版物のはてまですつかり(原文四字缺)ゐやがる。覺悟してゐたんだな。――だがまあいい、證據物なんざあ何もいらんよ。今更な。」彼はうそぶき、あざけるやうな笑ひをもらした。
 え、なんですか、と聞き、そのときは事實彼のいふところを解しかねてゐた杉村は、この數瞬間にすべてを理解した。――(原文二字缺)をもはばからず感動のために彼は泣けさうになつて來た。
「どうだ、いふかね。」と又きいた。
「今日はいひたくないんです。」とこんどはきつぱり答へた。
「さうか、それもいいだらう。――ぢやあ根くらべと行くとしようか。」
 よろしい、根くらべでもなんでも、と昂然として杉村は答へたい氣持であつた。張りつめてゐた心がゆるみ、最初は嘘のやうな、夢のやうな氣持でただぼんやりしてゐたが、しだいに腹のしん底からの勇氣が溢れて彼を滿した。この一ヶ月間の苦惱と疲勞とが、ほんのみじかい時間のうちに除かれてしまつてゐた。何が來よう
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