することも出來なかつた。
大西が歸つてからも杉村はしばらく起きてゐた。ぼんやり坐つて、いろいろな想念が秩序なく頭のなかに犇めきあふに任せておいた。大西は樂觀していつたが、彼がその責任者である組織の運命、それの當面してゐる諸問題、組織者としての自分の能力についての反省などが彼のなかでからみ合つた。農民が所屬してゐるそれぞれの層の組織内での重さ輕さが問題であると思つた。組織運動の一つの段階のちやうど終りに來てゐるといふ氣がした。つまり富農的小作人とでも名づけていい要素が、ある時期、特に初期の時期に組織内に壓倒的な力を持つのは必然なのだが、その時期が今終らうとしてゐる。彼らは彼らの持つ限界に到達したわけである。もし貧農的要素と彼らとの間に對立が起れば、その對立は避けるべきではなくその結果組合の數的勢力が微弱になつても仕方がないと杉村は考へた。そして現在貧農的要素が組合内に力弱いことは事實である。數の上での大小はともかく、組織内での實權を彼らは持たなかつた。村における彼らの社會的地位の輕重が、無産者的な組織のなかにまでそのまゝ持ち込まれてゐる奇妙さについて杉村は考へた。――そこで彼の考へは
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