ではないか。
「さうだ、さうだ、それにちがひないんだ。書記中心、事務所中心の農民運動はもうだめなんだ。これからは――」
 感情が激してそのつぎの言葉につまるうちに、大西は急に何かに思ひついたらしくにつこりし、まるで別のことをいひはじめた。
「先生も少し休むんですね。だいぶ身體が弱つてをられるやうだから。實際、去年の秋の忙しさからすぐに選擧ですからねえ。息のつく暇もありやしない。何もかも忘れて少しお休みになつたらいいんです。今のことだつてそれほど差迫つたことでもない、差迫つてゐたところであわてたつてどうにもなるこつてなし、――先生、D―温泉ね、あそこはいいですよ、一度あそこにいらつしやい、月十五圓ですみますが。」
 それには答へず、杉村はぢつと大西の眼に見入りながらしみじみといつた。
「これからはなんといつても君たちだ、君たちがほんとうの農民運動をやらなくちや。もう一ぺん下から叩きなほすんだ!」それからちよつと間をおいて憂はしさうに聲をおとした。「春の大會はしかしさぞもめることだらうなあ。うまく行つてくれればいいが――」
 そして我にもあらぬ感傷のなかにずるずるとずりおちて行く自分をどう
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