おなじ働く仲間を信じてゐる確かさがそこにはあつた。「それから先生、先生の前でこんなことをいつちやわるいが、わしには事務所の書記中心の農民運動はもうだめぢやといふ氣がしますが……、今の組織はその點でまちがつとるといふ氣がしますが。青年部の鬪士養成なんぞもその見地からばかしやられて來て、たとへば先生と今のわしらの研究會ね、ありやほんにためになるけんど、ああやつてちつとまし[#「まし」に傍点]な青年が出て來るとそいつをすぐに事務所の書記に引上げるといふ、今までのやり方にはどうも賛成出來んのです。第一、百姓をやめて町さ來てゐては、部落の衆となじみがうすくなるから今度のやうな時には困るものね。やつぱりあくまでも部落さしがみついて、みんなと結びついてをらんことには……。」
 彼はそこで休み、鉈豆に刻みをつめ、口に持つて行つた。淡々として何氣なく言つたその言葉が、どれほどの力をもつて杉村に働きかけたかを彼自身果して知つてゐるだらうか。杉村は感動でほとんど押し倒されさうになつたのである。いつの間にかかういふ大西に生長したものであらう。最後の彼の意見のごとき、つい先日、杉村が小泉と論じ合つたばかりの問題
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