らへてものをいつたときの大西とは別で、圓い顏に微笑をたたへ、もうすつかりおちつきを取戻してゐるやうに見えるのであつた。
「先生は何から何まで、自分ひとりの肩に背負つてるふうに考へなさるから大へんだ。それぢやあんまり苦勞が多すぎなさる。……先生個人の問題ぢやなくて組織の問題ぢやとわしや思ひますけんど。」
 杉村は思はずはつとして顏をあげた。この若ものが何氣なく言つた言葉は杉村の虚をつきさす鋭さを持つてゐた。彼は固唾を呑む思ひで次の言葉に耳を傾けた。
「必要ならばどうにも仕方がないから荒療治でもなんでもやりませうよ。」事柄がはつきりした形をとり、あれかこれかがもはや許されぬと知ると同時に、彼はかへつて平氣になつたものらしい。
「けど、乘り切ることが出來るかどうかつて、今にも組合がつぶれでもするやうに先生みたいに心配することはないと思ひますが。やつて見にやわからんことなら今から心配しても無駄ぢやし……、それにわしの考へでは分裂しても案外石川なんぞについて行くものはないといふ氣がします。ついて行つても一時ですね。」なぜさうなのか、彼はそれの根據については説明せずに過ぎて行つた。だが働くものが、
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