組織外のおおびただしい數の貧農の上にまでのびて行つた。直接小作料の問題で立ち上る氣力のない貧農、又は立ち上つても會費を納入し、恒久的な組織に保持しえない貧農についてである。廣汎なその層を問題にして來ると今のやうな組織と要求の取上げ方だけでは無力だつた。どうしても別個の新しいたたかひの形態が必要であり、今まで輕視されてゐた小作料以外の要求が重要視されねばならぬ時である。杉村は最近讀んだ支那の農民運動について考へあのなかにこそ多くの示唆があるのにちがひないと思ふのだつた。――しかし問題がそこまで進んで來ると、それの重大さ困難さの前に、組織者としての自分の能力について反省せずにはゐられなかつた。この仕事にこそ命を賭して悔いぬと全身で思ひこんだ。だがその三年間に實際にしとげた仕事の貧しさといふものはどうであらう。大西その他二三の青年を見出したことが結局最大の成果であるやも知れぬ。杉村が仲間たちの間で多少重んぜられてゐたのは、組織者としての能力の優越のためではなく、仕事の前に私の生活を無視し抹殺する彼の態度に一應の敬意が拂はれてゐたにすぎない。すべて和やかなもの、浮々するもの、駘蕩たるものは彼に
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