合に加入したといへるのだが、小作料をすぐにも賣つて金に代へ、前記のいろいろなおもはくにはそれを投じた。組合が勢ひを得て以來小作人同志の間で讓渡される、あるひは地主から代償として得る耕作權の價格が急激に上昇し、土地そのものの價格が下つてくると、土地賣買のなかだちを口入師《くにふし》に早がはりした農民があちこちの人の溜りに姿をあらはした。――
これほどの組織人員を持ちながら、これほどに「夜刈の思ひ出」に乏しいところがほかにあるだらうか? 共同作業や、競賣の際の大衆動員のこれほど利かないところがほかにあるだらうか? 地主との間の係爭の解決はすべて辯護士と書記の手に委ねられ、彼らの觀念によれば辯護士は文字どほり「お抱へ辯護士」であり、書記は會社の事務員にほかならなかつた。事務員が、事務員がと公然口にした。彼らの出す組合費で月給をまかなつて、この兩者を雇つてゐるのである。――それですんでゐる間はまだよかつた。だが、辯護士や書記の個人の力がいかに無力なものにすぎないかが暴露され、ほんとうの組織の力で事件を解決しようとの機運が組合の下の方から起つて來、杉村がこの機運の先頭に立つやうになると、組合の
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