上の方の勢力と事毎にかち合はなければならなかつた。そして某生命保險會社代理店の看板を家の前に下げてゐる石川剛造を先頭とするその勢力が、いかにしぶといものであるかを、彼らの育て役であつた杉村自身、いまはじめて知つたのである。
 ちやうどかういう状勢にある時に國會選擧が行はれることになつた。人々はあらたな興奮の渦にまきこまれた。村にはにはかに「政治家」がふえ、その地方出身の時めく顯官を君づけで呼び、彼らと「一杯のんだ」といふものが出て來た。二年前に組合が主體となつて成立した無産者黨も當然彼らの候補者を立てねばならなかつた。地元の人間を立てるか外から連れて來るか、それが議論の主要點となつた。杉村の所屬する地區は小數の反對者を除いて石川剛造を中央委員會に向つて推薦した。そしてそれは充分に力強い發言であつた。ほぼ組織人員數に比例して中央委員は選出され、この地區選出の委員は多數を占めてゐたからである。――杉村はたちまちヂレンマにおち入つた。なんとしても石川剛造を支持することは出來なかつた。彼自身の獨立した意見としてさうであつたし、その春から小泉と杉村とがメンバーとなつた一つの組織は選擧についての指
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