速女工の勸誘員になり、隣接地方の娘さがしに出かけて行くものが少くなかつた。時々投機的な對象物がどこからともなく村々を襲ふのであつた。最初せきせいいんこがはやり出しそれが下火になると兎が、それから食用蛙がはやつた。百姓たちは熱病にかかつたやうな眼つきをし、田圃の仕事の餘暇をぬすんではそのへんをうろうろし、人に逢ふとすぐにお互ひの袖の下に手を入れて指をにぎり、顏を見合せてにやりと笑ふ。これでか、いやもう少し、うん、買つた、よし賣つた、などといふのである。それらは暴風のやうにやつて來、百姓たちの金を何處へかかすめとり、又暴風のやうに去つて行くのである。青年時代を何年間か都會生活に過したものが多く、さういふ農民は農民に特有と思はれる魯鈍と無智からは一應遠いものに見えるのであつた。新聞の相場欄を理解する知識を持ち、時の政治家の人物をあげつらふのであつた。――組合の組織の急速な發展の原因はこれらの諸現象の交錯したなかにあつたといへる。小作料減免の要求においては彼らは強腰で一歩もあとへ引かなかつた。裏切りを拒ぐための小作料の共同保管は彼らに不必要で、組合加入後の彼らは、――いや、それを目的に彼らは組
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