各所に當時まだ殘存してゐた麥年貢撤廢の成功が發展の重要なモメントとなつたのである。急激に組織はのびまる一年後のその秋にはおくれて登場したその地區は他の古い地區を完全にしのぐ勢力となつてゐた。今は獨立した事務所を持ち、杉村は有給の書記となり、オルグとしての才能を認めらるるにいたつた彼の得意は知るべしであつたが、何がしかしさうした急速な發展の原因であつたものだらう。何よりも時のいきほひである。それに杉村の努力もなみなみならぬものがあつたにちがひはないが、組織の發展を促した諸矛盾そのものが、反對物を導き出す要因ともなりうるやうなものであつたことに、若い杉村は長く氣づかずにゐたのである。半ば封鎖された自然經濟のうちに生きてゐる東北地方の農民を見慣れた杉村の眼にはこの地方の農民生活は驚異であつた。朝、杉村はY市に續く表の道をひつきりなしに通る、蔬菜の山を積んだ車の音に眼をさました。畑の一角をかこつて觀賞用の草花をつくるものがあり、傾斜した日あたりのいい山の手には果樹の類の植ゑられることが近年めつきりえて來た。二男三男に植木屋を仕込んでゐる百姓もぼつぼつあつた。Y市にM―紡績の支工場が出來ると、早
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