ててたまるもんかい、ざまア見ろつて惡口雜言さ。敗けたのを口惜しがつてゐるどころか痛快がつてゐるんだ。むしやくしや腹をどこにも持つて行きどころがないもんでわしひとりにつつかゝつて來る始末さ。今晩の會議なんてとてもものにやなりませんよ。先生は顏を出さない方がいいかも知れない。やつぱり失敗だつたかなあ、杉村さん、地元から立てずに島田さんを立てたのは……」
「默れ! 餘計なことをいふな。」といきなり杉村は呶鳴つた。意外な彼の興奮におどろいて大西は口をつぐんでしまつた。
 その暗闇のなかにだが杉村は顏いろを變へたのである。おそれてゐた不安がこれほどまでに早く現實のものとして迫つた來ようとは思はなかつた。あたりはしーんとし、耳を澄まして聞くまでもなく、二階で何かののしり笑ひさざめいてゐる聲は明らかにいつもとはちがふのである。……杉村は逡巡した。がすぐ氣を取りなほし、今來た、といつた氣輕さをよそほつてとんとんと階段をのぼつて行つた。うしろで大西が何かあわただしく小聲でささやいたやうである。
「やあ、失敬々々、すつかりおくれつちまつて。」
 と障子をあけるなり杉村はいひ、わざと無雜作にそこに鞄を投げ出
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