思ひ、大西がうまくやつてくれたのだなと思ふと、たのもしくありがたい氣持だつた。自轉車を狹い土間に引き込み、ゴトゴト音をさせてゐると、二階から下りてくる音がし、中程に足をとめて、「誰あれ?」と上からもれる明りにすかして見てゐるやうであつたが、僕、といふと、ああ、杉村さん、と大西が下りて來た。
「御苦勞さん、みんな集つた?」といつて段にのぼらうとする杉村にパツと飛びつくやうにしてその手をしつかりとおさへると、ものをもいはず、ぐんぐんもとの入口の暗がりの方へ引つぱつて行くのである。どうしたんだ。どうしたんだ、といひながら杉村はついて行つた。
「杉村さん、敗けたんだつてね。」と低いささやくやうな、しかしひた押しに感情をおし殺さうと焦つてゐる聲である。
「敗けたよ、仕方がない、それで……」
「弱つたなあ、杉村さん、」
「ええ?」といつて杉村はなんといふことなしにどきんとした。
「組合は割れるね、わるくすると。」
「なんだつて、」
「まるで沸いてるんだ、二階の連中は! 一杯機嫌でやつて來るのが多くつてねえ、すつかり不貞腐れてゐるんだ。だからいはんこつちやない、土地のものをナメやがつて選擧なんかに勝
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