た、今その方針の明かな失敗を語る事實を見るに及んでそのものはにはかにはつきりとした形をとるにいたつたのである。だがそれを言葉にして投げつけることを許しはしない冷然たるものを小泉の顏に杉村は見た。彼は眉一つ動かさうとはせぬ。(奴はまた強引に押し切らうつていふんだ!)小泉は何らの相剋するものを自分の内部に感じてはゐないのであらうか? 敗けたこと自體は問題ではない、ただそれがもたらす影響が一つのおそるべき方向をとつて來るときは……
 突然ある不吉な考へが芽生え、それはみるみる大きなものになつて行くのであつた。小泉はもう杉村の存在は忘れたもののやうに手帳をひろげ何か心覺えを書いてゐる。
「ぢやあ、」といつて杉村は立ち上り、階段のところまで行つてちらりと小泉の方を見た。何か心惹かるるものがあつたのである。下へ下りてみると留守居の青年が前後不覺に眠つてゐる。外は暗く風が吹き荒んでゐた。自轉車を走らせ半町ほど行つてふりかへると、高臺の家はちやうど灯りを消したところであつた。

 表戸をあけ、土間を見ると足の入れ場のないほどの履物である。これは意外だつた。時刻は遲いし、今日の集りは半分投げてゐたのにと
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