のさへ、頼りなく思はれることがあつた。さうかと思ふと、十年二十年先を予想して大きな夢想に耽つてゐることがあつた。かういふ取り止めなさが病気の悪くなりつつある証拠であると考へ、絶望の病人ほど大きな夢想に耽りがちだといふ定説を考へ、だがまたさういふことを一々自覚し反省してゐることに安心を覚えたりもするのであつた。
やがて夏が過ぎ、秋も去り、冬になつた。賑やかだつた私の部屋の虫どもも影を消した。だがなほそこに残つてゐるものがあつた。冬の蝿は珍しくない。しかし冬のカマキリとか冬のカメムシとかいふものはどうだらう? 十二月初め頃までなら道ばたに足を引きずつてゐるヨボヨボしたカマキリを見ることがある。しかし私は一月も末になつてから障子につかまつてゐる彼を発見したのだ。あの臭ガメに至つては二月に入つてからあらはれた。彼等は何れも夏の青みを失つて――種類がちがふのかも知れないが――出来のわるい干葉《ひば》のやうな色をしてゐた。臭ガメのあの臭い汁も今ではもう蒸発し切つてゐるやうだつた。午後になると私は日当りのいい南向きの障子窓にすぐ近くおいた籐椅子の上に寝に行く。すると彼等もいつの間にかそこの障子にや
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