ないとなみの最中にあることがわかるのである。時々かすかに体を動かしてみる。またぢつとする。ある一つ事に全身を傾けながら、しかも絶えず八方に眼を配つて危害を加へようとする者に向つて警戒してゐるらしい。死んだ時以外には動かぬ時が想像できなかつたやうな彼だけにことさら真剣な面持に見えた。たしかにこれは生命をかけたいとなみである。……そして漸く私にもわかつて来た。ジガ蜂は卵を生みつけつつあるのである。
それはかなり長い時間だつた。漸くにして彼は出て来た。軽くなつたらしい尻を上げ下げする動作に重大な務めを終へたあとの安堵《あんど》を見せながら、また穴のまはりをくるくると廻つた。それから飛び去つて行つた。また帰つて来た時に今度も彼は何かをくはへ込んでゐる。彼はそれをくはへたまま穴に首を突つこんでしきりに何かやつてゐた。穴はジガ蜂の体の陰になつて寝てゐる私からはよく見えなかつた。やがてジガ蜂が身を退けた時、私は驚いた。穴の入口は壁土のごときもので綺麗に塗り固められてしまつてゐる。白い美しい壁土である。それで私はさきに彼がくはへて来たのは土塊であり、自分の唾液か何かで溶いて塗り固めたのだといふことを
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