見ますと、藪原の方では六、七月頃の梅雨時が一番よい品物ができるといわれているのに、平沢の方ではその梅雨時と九月の雨期とが一番仕事がしにくいと申しております。まだそれでも、この平沢では、ごく多湿の年以外は年中製作してはおりますが、他府県の漆器製造地では年々その雨期には、ついにその製作を中止している地方さえもあるほどでございます。
しかしそれをその鳥居峠の南北両斜面について、あそこの植物について調べて見ますと、その乾燥性に強い「はぎ」の、しかも数メートルもの丈に延びた大きなのが、峠の北側には非常に繁茂しておりますのに、南側には懸賞で探しましてもどうかと思われるほど少ないといったように、著しい対象を見せております。
そうしてこれは、まったくあそこの峠という地形に対し、そこに発達しております風の影響によるのでございます。この峠付近は年中南風のよく吹いているところなのでございます。幸いあそこの峠の頂には、森林測候所がございまして、その観測の結果から最も信用のできる資料を知ることができますが、つまり、南風がこの峠の南斜面を這い登り、時にはそこに霧さえ起し、今度はそれが北側へ吹き下す時には、一種
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