自力更生より自然力更生へ
三澤勝衛

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)懶《なま》け

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|叺《かます》

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「郷/虫」の「即のへん」に代えて「皀」、第4水準2−87−90]
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        はじめに

 次の小文は、昭和十一年の春、長野県砂防協会の第三回総会に招かれたその席上での小講演要項である。会合された方々、すなわち聴講者の内容は県庁内のその方面の方々を初め、実際各地の崩壊地において直接その方面の事業に携わって苦労されておられる技術家の方々、および直接その崩壊被害のために年々苦難されておられる長野県各地の市町村長および助役といったような方々で三〇〇余名の会合であった。
 会合の場所が木曾福島町であり、翌日はその木曾地方の崩壊地およびその砂防工事の見学ということが予定されておった。
 したがって講演の資料を努めて信州各地の実例にとり、しかも木曾地方の資料をやや過分に取入れることに考慮した。しかし講演の本旨は、とにかくそういった崩壊、すなわち被害に直面し、どちらかといえば、その自然の偉力に対し常に対抗するかの境遇に立っておられる方々の集りであるから、ともすれば「自然征服」といったような考えと意気とを持って向われておられる方々がないとは断じ難い。あるいはそういった考えを明瞭に意識されておらないまでも、いつとはなしに、それが頭のどこかに入っているという心配は十分にある。
 もちろん、山野の崩壊の中には、その原因として、(1)[#「(1)」は縦中横] 濫伐とか開墾とか、あるいは無理な道路の開鑿とかいった人工的のものと、(2)[#「(2)」は縦中横] そこの地盤の隆起沈降といった自然的のものとの二つがある。多くの場合、この両者の共同といったような場合が一番多いかも知れない。したがってその自然的原因に対しては、とうていわれら人力の勝手にはならない。いっそうのこと、逆にその崩壊を善用するという態度に出るのが当然である。いずれにしても「自然力征服」という考えは完全に拭い去ることが必要である。与えられた時間がわずか一時間半という短時間ではあり、とうてい十分
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