」と評議一決。やがて黒羽町に入込《いりこ》むと、なるほど、遊廓と背中合せに、木賃宿に毛の生えたような宿屋が一軒、簷《のき》先には△△屋と記してある。
「これだな」と、一行は澄ました顔をしてその前を素通りしながら、そっと横眼を使って店内《みせうち》を眺めると、有るわ有るわ、天幕《てんと》、写真器械、雑嚢《ざつのう》など、一行の荷物は店頭に堆高《うずたか》く積んである。宝の山に入りながらではないが、我が荷物ながらオイ遣《よこ》せと持出す訳にも行かず、知らぬ顔に一、二町スタスタ行き過ぎると、忽《たちま》ち背後《うしろ》からオーイオーイと呼ぶ者がある。振返ってみると、なるほど、梅ヶ谷のような大女《おおおんな》、顔を真白《まっしろ》に塗立てた人《じん》三|化《ばけ》七が、頻《しき》りに手招きしながら追っ掛けて来る。
「ソラ来た」というので、一同ワッと逃げ出す。その速い事! 今までの足の重さもどこへやら、五、六町|韋駄天《いだてん》走りに逃げ延びて、フウフウ息を切らしながら再び振返ってみると、これはしたり、一行中の杉田子は、件《くだん》の大女に掴《つか》まって何か談判最中。救助隊を出さねばなるまい
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