ころ》まで来かかると、ここにも飴《あめ》ン棒など並べて一軒茶屋。一行はまたもや一休みして、
「黒羽で好《よ》い宿屋はどこだ」と試みに問うと、将棋を指していた四、五人の爺《じじい》連、
「そうさね、新しくできた花月がよかんべい。あの家《うち》は堅えだ。お前様方どこへ泊るね」というので、
「△△屋がいいと聞いたので、荷物も先回しに遣っておいた」と答えると、
「へへへへへ、あの家もよかんべい。梅《うめ》ヶ|谷《たに》みたいな女《あま》も二人いるだで――」と妙に笑う。形勢|甚《はなは》だ穏やかならん。よくよく聴きただせば、△△屋というのは女郎屋と背中合せの曖昧《あいまい》屋で、我が一行の荷物は先回しに、淫売宿《いんばいやど》へ担ぎ込まれた次第と分ったり。
「サア大変じゃ!」
 第一に敦圉《いきま》き出したのは髯《ひげ》将軍、
「これはいかん! これはいかん! 淫売屋などへ泊れるものか、堅いという花月へ行こう」
「荷物はどうする」
「荷物なんか構うものか。△△屋の前は知らん顔に素通りして、後《あと》から宿屋の者を取りに遣る。ぐずぐずいったら査公《おまわり》に持って来て貰うさ」
「そうじゃそうじゃ
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