らずジャアジャア降っている。
(三)洪水の悲惨
上野発水戸行の汽車は午前十時と聴いたので、さっそく朝飯を掻込《かっこ》み、雨を冒して停車場《ステーション》へ駆け着けてみると、一行《いっこう》連中まだ誰も見えず、読売新聞の小泉君、雄弁会の大沢君など、肝腎の出発隊より先に見送りに来ている。その内に未醒《みせい》画伯の巨大なる躯幹《くかん》がノッソリ現われると、間もなく吉岡将軍の髯面《ひげづら》がヌッと出て来る。衣水子、木川子など、いずれも勇気|勃々《ぼつぼつ》、雨が降ろうが火が降ろうが、そんな事には委細|頓着《とんちゃく》ない。
やがて午前十時になったので、切符を購《もと》めて出札口に差し掛かると、
「ドッコイ、お待ちなさい。これは水戸行の汽車ではありません。水戸行は午前十一時五十五分です」と来た。
「オヤオヤ、オヤオヤ。誰だ誰だ、水戸行を、午前十時だと言ったのは――」と、一同|開《あ》いた口をヒン曲げて詮議に及んだが、誰も責任者は出て来ない。元来|呑気《のんき》な連中の事とて、発車時間表もよくは調べず、誰言うとなく十時に極《き》めておったのだ、とにかく約二時間待たねばなら
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