嘩して、その負傷した血汐の滴り落ちたのだろう」と、断水坊は御苦労にも卓子《テーブル》を担ぎ出してその上へ登り、吾輩は、懐中電灯を輝かして、蚤取眼《のみとりまなこ》で天井を隈《くま》なく詮索したが、血汐は愚か、水の滴り落ちた形跡すらどこにもない。どうも分からん分からん、不思議な事もあれば有るものだと、二人は暫時《しばし》顔を見合《みあわ》すばかり。鮮血は二人の身体《からだ》から出たものでなく、また天井から落ちたものでないとすれば、空中から飛んで来たものとほか思う事は出来ない。誰か友人中に死んだ者でもあって、その暗示《しらせ》が来たのではあるまいか。イヤそんな事もあるまいが、横断旅行の首途《かどで》にこの理由《わけ》の分らぬ血汐は不吉千万、軍陣の血祭という事はあるが、これは余り有難くない、それにこの大風《たいふう》! この大雨《たいう》! 万一の事があってはならぬから、明日の出発は四、五日延期してはどうかと、断水坊平生の洒《しゃあ》ツクにも似ず真面目|臭《くさ》って忠告を始めたが、吾輩はナアニというので、その夜はグッスリと寝込み、翌朝|目醒《めざ》めたのは七時前後、風は止んだが、雨は相変わ
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