うだよそうだよ」と、吾輩焼酎を吐出してしまったので大いに気持もよく、またもやスタコラ走って漸《ようや》く雲巌寺の山門に着いてみると、先着の面々は丸裸となり、山門前を流るる渓流で水泳などをやっている。元気驚くべし!
一着は水中の津川五郎子で、一|哩《まいる》の時間十五分十二秒、二着は髯将軍、三着は羅漢将軍、四着は走れそうもない木川子が泳ぐようにして辿《たど》り着いたという事で、吾輩はビリの到着。昨日《きのう》の第一着は差引きでゼロと相成った。残念残念。
雲巌寺は開基五百余年の古寺《ふるでら》で、境内に後嵯峨《ごさが》天皇の皇子《おうじ》仏国《ふつこく》国師《こくし》の墳墓がある。山門の前を流るる渓流は、その水清きこと水晶のごとく、奇巌《きがん》怪石の間を縫うて水流の末はここから三里半ばかり、黒羽の町はずれを通っていると聴くので、足の重くて堪《たま》らぬ吾輩は一策を案じ出し、
「どうだ、大きな盥《たらい》を八個《やっつ》買ってそれに乗り、呑気《のんき》に四方の景色を見ながら水流《ながれ》に泛《うか》んで下ったら、自然に黒羽町に着くだろう」と、そこで新しい盥でも古い盥でも構わん、人間一|
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